引きこもりと家族
引きこもりという言葉は一昔前からワイドショーなどで取り上げられるようになり、
平成30年にはひきこもりサポート事業が拡充されるなど、現在まで関心を向けられ
続けているように思われます。
厚労省では引きこもりを「様々な原因で長期間自宅などから出ず、自宅外での生活の場が
ない状態」と説明しています。
平成29年の横浜市を対象にした調査では15歳~39歳のうちの約1.4%が引きこもりの
状態にあると言うことでした。
さらに「自分も家や自室に閉じこもりたいと思うことがある」などの質問に「はい」
「どちらかといえばはい」と回答した「引きこもり親和群」は約7%だったようです。
すると、15歳~39歳のうちの8.4%(推計だと8万7千人くらいになるようです)の人たちは
引きこもりと親和性の高い状態にあると言えるわけで、これだけの人数がそのような
状態にあるとすれば、関心を向けられるのも自然なことだと思わされます。
引きこもりに関しては、サポートを求める人の多くは当事者の家族、親族です。
家族は当事者になんとか自分で動いてほしいと願いながらも、それが叶わない毎日を心配し、
困り果てていることがあります。
齋藤ら(2018)は「ひきこもり状態の人が支援機関に踏み出すまでの心理的プロセスと家族支援」
という研究の中で、引きこもり状態の人が支援機関に踏み出すまでの転換点を3つ挙げています。
①〔親からの非難の沈静化〕による 〔追い詰められ感の軽減〕
②〔安全基地の獲得〕が社会への志向へ
③〔背中を押される〕ことで 〔勇気を出してハードル越え〕ヘ
(論文中には3つの転換点がより詳しく説明されています。全文はこちら)
高田(2018)によれば「確信的に」「のびのびと」ひきこもれる人は僅かで、
むしろ、ほとんどのひきこもりの人に共通する葛藤構造は
「ひきこもりたくないのにひきこもってしまう」というものだと言います。
そのような葛藤状態の中、周囲から理解されないことに悩む当事者に対して家族は
何よりも本人の苦悩を理解し非難をせずにいることで、本人の追い詰められ感を低減する
ことが重要だと言います。
次なる転換点として、家事や料理など家族の中での役割を引き受けることで、
家族に受け入れられているという安全基地、居場所感を家に感じられるようになること、
最後の転換点で、はじめて親からのアプローチが本人を動かす助けとなり得るのかもしれません。
その際にも、やはり親は一方的にアプローチするのではなく、伴走者として本人が動こうと
しているそのタイミングを待ち、見極める姿勢が重要なようです。
引きこもりは非常に長いプロセスに家族自身も耐えることになります。
「非難をせずにいること」「焦らないこと」が家族にとっていかに困難かは論文の中でも
言及されています。しかし、このようなプロセスが可能性ある見通しの1つとして提示されることが、
先の見えない中でただ耐えることとは違った一縷の希望と感じられることもあるかもしれません。
引用文献:
斎藤まさ子, 本間恵美子, 内藤守, 田辺生子, 佐藤亨, & 小林理恵. (2018)
ひきこもり状態の人が支援機関に踏み出すまでの心理的プロセスと家族支援. 家族看護学研究, 24(1), 74-85.
高田さやか. (2018). ひきこもりの実態と支援. 夙川学院短期大学研究紀要, 45(45), 91-103
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