ネガティブ思考と距離をとろう ~脱フュージョン~
あんなに暑かったのに気温は急に寒くなり、徐々に日が落ちるのも早くなりはじめ、
季節の変わり目は調子が安定しない、なんだか落ち込むという方が多い印象を受けます。
今日はそんなネガティブな気持ちや考えとうまくお付き合いするコツとしてACTを紹介しようと思います。
ACT(アクセプタンスコミットメントセラピー:Acceptance and commitment therapy)とは、
心理的な柔軟性を促進することを目的とした第3世代の認知行動療法と呼ばれるものです。
ACTでは柔軟なメンタルを促進する方法として6つの要素が大切とされていますが、
その一つの要素に“脱フュージョン”というものがあります。
何かの必殺技のようでカッコいい響きですよね。
私たちは常に何かを考えながら生活しているのですが、その考えが自動的に現実生活の
行動に多かれ少なかれ影響を及ぼしていることがあります(これを認知的フュージョンといいます)。
行動にプラスの影響がある考えであれば全く問題ないのですが、ネガティブな考えに
影響されてしまうと思うように動けず辛いですよね。
例えば、“自分はダメ人間だ”という考えが強い人は何かに挑戦してみたい気持ちが沸いても、
その思考にのまれてしまってせっかくのチャンスを逃してしまうなんてことがあるかもしれません。
ACTでは、思考をあくまで頭の中で勝手に作られている物語で、現実とは関係があるかどうかも
定かでない単なる言葉・音の羅列や繋がりにしかすぎないと考えます。
それらの思考に翻弄されずに自分と切り離して距離を置くこと、つまり、認知的フュージョンから
脱する“脱フュージョン”が大切とされています。
脱フュージョンをするための方法としては次のようなエクササイズがあります。
- 言い方を変えてみる:言葉の持つ意味やインパクトが薄れます
・邪魔をしている考えや言葉を何度も何度も早く繰り返し言う
例:だめにんげんだめにんげんだめにんげんだめにんげん…
・逆にものすごくゆっくりと言う
例:だーーーめーーーにーーーんーーーげーーーんーーー
・特徴的なキャラクターの口癖やフレーズのように言ってみる
例:僕ダメ人間なり~
・考えを好きな歌のリズムに乗せて歌詞にする
- ラベルを貼ってみる
・「~と考えた」「~という考えを持っている」を語尾につける
例:私はダメ人間“と考えた”、私はダメ人間“という考えを持っている”
・よく起こる思考や感情に名前を付けて擬人化する
例:あーまたダメ人間くんが大きな声で頭の中で何か言ってるな~、どんな顔で言ってるかな~
- イメージを使ってみる
・考えを空を漂う雲だと思って流れゆくのをイメージする
・考えを川を流れる葉っぱに乗せて流れゆくのをイメージする
・電車の貨物に思考を乗せてビュンと通り過ぎるのをイメージする
・トイレに考えを流すのをイメージする
どうでしょうか。アイデア次第でいろんなエクササイズができます。
かくいう私も文章を書くのがとっても苦手なので、この記事を書き始めた時には
上手に書けるかな…何書けば良いんだ!…読んでもらえるのかな…等々考えに飲まれ不安になり
手が進まなくなっていたので、最近友人がディズニーランドに行ったという話を思い出し
ミッキーマウスマーチのリズムにネガティブな思考を乗せて脱フュージョンのワークをしながら
書いていたのですが、気づけば不安が消えて今はちょっとわくわくした気持ちになっています。
こんな感じでいつでもどこでも手軽にできるものなので、自分にフィットするやり方を
ぜひ生活の中で取り入れてみてください。
とはいえ、なかなか一人で取り組むのが難しいことも多いと思います。
そんな時はカウンセラーと一緒に取り組むのがおすすめです。ぜひお気軽に
こまち臨床心理オフィスにお問い合わせください。
参考図書:ラスハリス(著)、岩下慶一(翻訳)「幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない:マインドフルネスから生まれた心理療法ACT入門」筑摩書房
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不眠とべき思考
睡眠についての悩みはとても日常的なものです。
健康な時でもその日よく眠れたかどうかで一日の快適さが違うように感じますし、
よく眠れない日が続くとそれだけで憂鬱になるものです。
スマホのアプリストアに並ぶ多種多様な睡眠アプリの数を見ると、いかに多くの人が
良い睡眠を切実に求めているかがわかります。
実際に短い睡眠や長い睡眠(大体6~8時間が適度な時間とされています)は、
様々な健康リスクとの関連が指摘されています。
生物には時間によって体内環境を変化させる体内時計があることが知られており、
良い睡眠はこの体内時計と密接に関係しています。夜になったら明るい光を浴びないこと、
スマホなどを見るスクリーンタイムは減らすこと、そして、朝起きたらまず日の光を
浴びること、などはよく聞くアドバイスではないでしょうか。
平日は短時間しか眠れない分、休日にまとめて寝たりして平日と休日で睡眠時間の
リズムが大幅にずれることは「ソーシャル・ジェットラグ」と呼ばれ、体内時計を
乱すことが分かっています。具体的には体内時計が後退して休み明けに起きられなかったり、
眠気が取れなかったりします。
しかし、眠るというのは難しいもので、短い睡眠に健康リスクがあると言われると
「最低でも6時間は寝なきゃいけないのに!」と焦ってしまい、かえって眠気が逃げて
行ってしまうものです。
「べき思考」という考え方(認知)のクセを以前紹介しましたが、切実に眠りたいと願う人ほど
眠りに対する「べき思考」、つまり「最低でも6時間は寝るべき」という思考に陥りやすくなります。
6時間を切ってしまった後は「最悪でも5時間は…」と思っては、結局5時間を切っても焦るばかりで
眠気がやってこない場合もあるかもしれません。
よりよく眠るコツとしては、20分経っても眠気が来ないようなら、いったん起きてしまうのが良い
と言われています。眠りに対するべき思考から意識を離すために、読書やホットミルクを飲むなどの
激しくない軽い活動をしてみましょう。この時も部屋を明るくしすぎたり、スマホを見たりするのは
避けた方が良いでしょう(とはいえ中にはスマホを見ている方が入眠しやすいとおっしゃる方もいます。
悩みから意識を離す役に立つなら良いのかもしれません)。
そうして気持ちがリラックスしたり眠気を感じたら、ゆっくり布団に戻ってみます。
理想的なリズムで生活できたらそれは一番良いかもしれませんが、理想をいきなり掴もうとしても
体内時計はすぐには変わってくれません。そんなときには自分が「7時に起きるべき」「22時に寝るべき」
といったべき思考に捉われてしまっていないか振り返ってみましょう。
そうして、まずべき思考から離れて、「無理なく起きられる時間」「無理なく布団に入れる時間」を
設定してみましょう。本当に無理の無いくらいが良いでしょう。
それができたら少しずつ、20分や30分ずつ、理想の時間に近づけてみましょう。
Lear More会社で働くこととパワハラ
ハラスメントと言う言葉は以前からありましたが、昨今の啓発の影響で私たちは様々なハラスメントが
あることを知るようになりました。
パワハラ・セクハラ・マタハラ・カスハラなど、非常に多くの種類のハラスメントが名づけられています。
2020年の厚労省の調査によると、日本で働く人々の中で3年以内にパワハラ受けた人の割合は
31.4%となっています。これを多いと感じる人もいれば、少ないと感じる人もいるかも知れません。
ただ3人に1人が3年以内にパワハラを受けたことがあるとしたら、それはとても身近で誰もが
遭遇する可能性があると言って差し支えは無いでしょう。
実際に働く人のカウンセリングのテーマとしても決して少なくありません。
パワハラと聞くと、上司が一方的に部下を怒鳴りつけるとか、殴ったり、ものにあたったり、
または無理難題や過剰な仕事を押し付けると言ったシチュエーションを思い浮かべるかもしれません。
しかしそれだけではなく、仕事を与えないことや仕事から外して疎外すること、関係ない私物や
プライベートをチェックすることなどもパワハラとされます。
このような状況を受けて国も対策を講じています。今年の4月には改正労働施策総合推進法、
いわゆるパワハラ防止法が中小企業の事業主においても義務化されました。
パワハラ防止法では、事業主に雇用管理上必要な措置としてパワハラ防止の社内方針の
明確化と周知、また苦情などに対する相談体制の整備などを義務付けています。
パワハラは会社・家庭(家庭の場合はDV、虐待など名前が変わるかもしれませんが)など
閉鎖された環境下で行われる怖さがあります。
会社という組織で上下関係が全くなく全員がフラットというのはあり得ません。
その会社の一員として内部にいると、立場上状況を受け入れざるを得ないと感じます。
この辛い状況は「社会では当たり前のこと」で、それに耐えることが出来ない自分がおかしいのだ、
いけないのだ、と自分を責め、抱え込んでしまう場合も少なくありません。
ハラスメントに関する非常に豊富な啓発資料が掲載されています。
中にはVRパワハラ・VRセクハラなど、ハラスメントを疑似体験できる(したくないと思いますが)
コンテンツもあったりなど、今、身近で行われている事柄がハラスメントかもしれないと
気が付くためのコンテンツが手に取りやすいよう工夫され揃えられています。
これらのコンテンツに触れ「自分の置かれている環境がおかしいのかも」と思ったら、
これまでの環境に馴染めない自分を責める考え方からすこし距離をとって耐えられないのは
パワハラだったからなのではないか、と思い直してみるとこれまでとは違った対処方法が
見えてくるかもしれません。
Lear More不安、不満、怒り などネガティブだと思われている感情の心理と重要性について
皆さまは日常生活で不安や不満、怒りと言った感情を感じることはあると思いますが、これらの感情は
普通に生活を過ごしていく上ではとても厄介に感じられる方が多いと思います。
基本、そういった感情は不快なものであり、できれば感じたくないものです。
カウンセリングに来られる方にも、不安や不満、怒りを「無くしたい」と相談される方は非常に多いです。
確かに強すぎる不安は心を萎縮させてしまい、何かをしようと思っても怖かったり不安になってできなく
なってしまうことがあります。
学校や仕事に行くのが不安だったり、電車に乗るのが怖かったりして、外出するのが不安になって
行動できなくなることがあります。
また、不満と怒りといった感情は、強すぎると文句が多くなりすぎたり、怒鳴ったりといった
自分でも思ってもないような行動をとってしまい、自分の行動が思ったようにコントロールできなく
なってしまうことから、周囲との人間関係に摩擦を生じさせてしまい、時には大切な人間関係を破壊
してしまうかもしれません。
ただ、こういった不安や不満、怒りと言った感情は人間にとって大切な感情であり、
なくてはならないものだという側面もあります。
例えば、不安が無くなってしまうと、事故や詐欺に遭わないように注意すべき
場面でも、そもそも警戒しようとしないため、気を付けることがやりにくくなってしまいます。
また、不満や怒りといった感情は、満たされていない欲求を満たしたいから頑張ろうといったエネルギーが
わいてきますし、現状への強い怒りが改革や変化への大きな原動力になっているのは歴史が証明しています。
つまり、自動車に例えて言えば、不安はブレーキの役割を果たし、不満や怒りがアクセルの役割を果たしているので、
どちらが無くなっても自動車としては機能しなくなることから、どれだけ重要かと言うことはわかっていただけると
思います。
ただ、不安が強すぎたり、不満が強すぎたりすると、ブレーキを踏みすぎて進まなかったり、
アクセルを踏みすぎて事故を起こしてしまう状態になってしいまい、問題になると思われます。
さらに、強くアクセルを踏みながら強くブレーキを踏むといった矛盾した状態ではエネルギーを消耗する割には
問題解決が進まず、消耗するが動けないといった状態になってしまうことがあります。
こういった不安や不満、怒りと言ったことが現実的かどうかを第三者の専門家を交えて現実的に検討していき、
物の見方や考え方、行動等を修正していくのが認知行動療法であり、そういった感情がどういったところから
来ているのか探求をしていくのが精神分析的心理療法と言っていいのではないでしょうか。
どちらのやり方にも一長一短があり、どちらが良いとは一概に言えませんが、完全にどちらかの方法で
カウンセリングを進める場合もあるのですが、それぞれの要素を取り入れて行っていく場合も多いと思います。
不安や不満、怒りといった感情は大切なものなのですが、強すぎたり、足りなかったりすると
問題になってくるものであり、それに対するカウンセリング的アプローチは多種多様で、
ケースバイケースでの対応になります。
こまち臨床心理オフィスではそういった多種多様なニードにお応えできるように色々な立場の
心理の専門家が在籍しています。
感情的な問題で困っていると感じているのであれば、お気軽にご連絡していただけたら幸いです。
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