「心理的安全性」を感じる環境とは?
皆さんは、学校のクラスや部活やサークル、会社の部署やチームなど、自分が所属している集団で
安心感や自由さを感じられていますか?
今回は、アメリカのリーダーシップや組織学習の研究者であるエドモンソンが1999年に提唱した
「心理的安全性(psychological safety)」について、ご紹介します。
(1)「心理的安全性」とは何でしょうか?
「心理的安全性」とは、「このチーム内ではリスクのある行動を取っても安全だ」
「自分の意見や質問、関心、または誤解を、罰せられたり、屈辱を与えられたりせずに、自由に発言できる」と
チームのメンバーに共有されている考え、として定義されています(Edmondson, 1999)。
また、この概念は、チームや組織といった集団レベルで起こる状態像として捉えられるものです。
しかし、最近の研究では、個人が組織やチームに抱く認知や信念として扱うものもあるようです。
(2)「心理的安全性」を確かめるチェックリスト
では、皆さんは、現在所属している集団でどれだけ「心理的安全性」を感じられているのでしょうか?
これは確かめるために、エドモンソンが用いた7つの質問をチェックしてみてください。
①チーム内でミスをすると、批判されることが多いですか?
②チームメンバーと、ネガティブなことや課題を指摘し合うことができますか?
③チームメンバーは、自分とは違うということを理由に他者を拒絶することがありますか?
④チームに対しリスクのある行動しても安全ですか?
⑤チームメンバーに助けを求めにくい雰囲気ですか?
⑥自分の仕事を意図的におとしめるような行動をするチームメンバーはいませんか?
⑦チームメンバーと働くときに自分の才能とスキルが尊重され、活かされていると感じますか?
これらの質問に対して、「全くその通りだ」、から、「全くその通りではない」まで7段階で評価します。
また、①③⑤は逆転項目になっています。この合計得点が高いほど、あなたの所属している集団は
心理的安全性が低いと評価されます。
(3)「心理的安全性」が低いことで、個人に起こる4つの不安
では、所属している組織やチームの心理的安全性が低いと、どのようなことが起こるのでしょうか?
エドモンソンによると、自己印象操作と呼ばれる以下の4つの不安が生じ、チームの中で率直に意見を述べたり、
積極的に行動していったりすることを阻害してしまうそうです。
・無知だと思われる不安
・無能だと思われる不安
・邪魔をしていると思われる不安
・ネガティブだと思われる不安
このような不安が生じると、個人は自分が悪く思われないための印象操作をして、自分を守ろうとします。
そうすると、チームで良い成果を出そうとするよりも、自分をよく見られようと努力してしまい、結果的に
そのチームの生産性が低下してしまいます。
(4)「心理的安全性」を高めるために
では、「心理的安全性」を高めるためにはどうすれば良いのでしょうか?
心理的安全性は、組織の単位で考えていく概念なので、まずはその組織やチームのリーダーの態度や働きかけ、
サポートなどが重要となっています。
例えば、以下のようなことが挙げられます。
〈上司の立場やリーダーの役割を担う人が取り組んでいけること〉
・自由に意見を言い合える機会やルールを設ける
・チームの中で行われている仕事内容や進捗状況を、全員でできるだけ確認し共有できる仕組みを作る
・上司自らが、チームのメンバーに話しかけ、普段から何気なく話し合える関係や雰囲気を作っていく
・日ごろから些細なことでもコミュニケーションを取るよう、声かけやブリーフィングの時間を設ける
しかし、1メンバーとしての個人単位でも、取り組めることがあります。それは、以下の通りです。
〈個人が、組織やチームの心理的安全性の向上のために取り組めること〉
・上司、同僚、部下にかかわらず、相手の意見を否定せずに耳を傾ける姿勢をもつ
・自分の意見を積極的に発言していく
・自分も相手も大切にして、自分の感情や要求を率直に、誠実に、対等に伝えることのできる
自己表現(アサーション)を心がける
・他の人がどんな仕事をしているのか、どのような状況なのか、関心を持つ
組織の関係性は複雑な場合もあるでしょう。リーダーでもあり、同時にメンバーでもある場合もあるかも
しれません。今いる組織・グループの中で、自分がどの立場にいるのかを知っていき、まずは自分の
立場として取り組めることを考えられると良いかもしれませんね。
関連項目→「アサーション」とは アサーションの記事へのリンク
参考文献
Edmondson, Amy (1 June 1999). “Psychological Safety and Learning Behavior in Work Teams”. Administrative Science Quarterly. 44 (2): 350–383.
Lear More
レジリエンス(精神的回復力)を高めるためのカウンセリングという選択
レジリエンスとは、「困難で脅威的な状況 にもかかわらず、うまく適応する能力・過程・結果」とされ
最近国や地方、企業が積極的に取り組んでいるSDGs(持続可能な開発目標)の中にもよく出てくる言葉です。
SDGsの中では、持続可能な世界にするための強さや対処力といったニュアンスがありそうですが
心理学の中で使われると、特に「精神的な回復力」という意味になります。
ストレスを感じない強さというよりも、ストレスなど辛いことがありながらも、そこから自分で
立ち直って、乗り越え適応する力がレジリエンスと言えるでしょう。
そうは言っても人生には乗り越えるのがとても難しい辛いことがたくさんありますし、なかなか自分で
レジリエンスがあると言える人は少なくて、多くの方は「自分はレジリエンスが低いな」と感じられる
かもしれません。
近年の心理学ではこのレジリエンスを資質的な要因と、獲得的な要因との2つの要因から理解する考え方
があり、以下の図のようにまとめられています。
資質的というのは「生まれ持った」という意味で、獲得的は、後天的に獲得する要因という意味です。
それぞれ、どちらかがあればいいと言うわけではありませんが、レジリエンスと言うのは、持って
生まれた資質で決まるというわけではなく、生きていく中で獲得していく、あるいは”獲得できる”要素も
あると言うことです。
レジリエンスの獲得的要因を見ると「問題解決指向」「自己理解」「他者心理の理解」の3つが
挙げられていますが、カウンセリングの中で取り組んでいくことととても近いものがあるのに気が付きます。
カウンセリングでは取り上げる問題の内容にもよりますが、ほとんどの場合、お困りごとの内容を
お聴きする中で、問題を整理して自己理解や問題と関わりのある周囲の他者について距離を取って見られる
お手伝いをし(見立てやケースフォーミュレーションなどと呼んだりします)、問題の解決方法を一緒に
考えていきます。
つまりカウンセリングは、「自己理解」「他者心理の理解」「問題解決指向」を通して、レジリエンスを
高めていく試みだとも言えるかもしれません。
また、レジリエンスの資質的要因についても、完全に資質的な物というわけではなく、後天的に獲得する
こともできると言われています。
例えば「社交性」は、自己理解や他者理解を通して、また、「楽観性」は問題を解決できた経験を通して
少しずつ育っていくこともあるでしょう。
カウンセリングを通して全般的にレジリエンスを高めることで、困難な人生を乗り越える最初の一歩と
することができるかもしれません。
参考文献(もっと詳しく知りたい人)
平野真理. (2010). レジリエンスの資質的要因・獲得的要因の分類の試み――二次元レジリエンス要因尺度 (BRS) の作成. パーソナリティ研究, 19(2), 94-106.
平野真理 & 梅原沙衣加. (2018). レジリエンスの資質的・獲得的側面の理解にむけた系統的レビユー. 東京家政大学研究紀要, 58(1), 61-69.
Lear Moreメタ認知療法③
前回の続きからですが、心配事を繰り返し考えることだけにすっかり捉われてしまっている
状態(CAS)から、いかにして心配事とは適度な距離を取って捉われることなく付き合える
ようになる(DM)か、そのためのワークのほんのいくつかをご紹介しましょう。
「ワークを始める準備」
心配は常にあって、そこには始まるきっかけなどないように感じるかもしれませんが、
ほんのちょっとした些細な事であってもそこにはきっかけがあるはずです。
まずそのきっかけを探してみましょう。
「心配先延ばし実験」
「心配は自分にはどうにもできない」というメタ認知的信念に挑戦してみましょう。
心配をして良い時間を、毎日家と職場までの道のりを歩いている時だけ、もしくは
その日のお風呂に入ている間の15分だけ、と決めましょう。
もし、心配が始まるきっかけに出くわしたら、そのまま心配を始めるのではなく
決めた時間までは心配を先延ばしするようにしましょう。もちろん、決めた時間内で
あれば、好きなだけ心配をして構いません。
「注意訓練」
心配に捉われる状態である「自己注目」から抜け出すために、
注目=注意を自分の意思で切り替えられるようになるためのトレーニングを行います。
このトレーニングは以下のステップで構成されています。
①選択的注意
今周りで聞こえる音に注意をむけます。沢山の音の中で、1分おきに何か特定の音
(自分にとって特別な意味を持たない音が望ましい)に注意を向け直していきます(6分間)。
②注意の転換
20秒ごとに、注意を向ける音を変化させていく練習です(6分間)。
③注意の分割
聞こえてくる物音全てに注意をむけます(3分間)。
上記ステップを通して、捉われることのない注意、柔軟な注意を身につけていきます。
この時大事なのは「ネガティブ思考が出てこないようにする」ことではなく
「ネガティブ思考が出てきても,別の集中したいことに集中できるようになる」ことだと
言われています。
つまり、ネガティブ思考をムリヤリ抑え込もうとするのとは違いますよ、と言うことです。
これは非常に大切で、ネガティブ思考が出てきて困っている時に、思考を抑えたくて注意訓練を
やるのではなく、普段から心を整えるための方法として取り入れていくことが大切ということです。
注意訓練に関しては注意を向ける音を提供してくれる動画がYouTube
(https://www.youtube.com/watch?v=PM1qWHKkpdA)に上げられていたりします。
そのようなものを活用してみても良いかもしれません。
参考文献:
今井正司 & 今井千鶴子. (2011). メタ認知療法 (< 特集> 認知/行動療法). 心身医学, 51(12), 1098-1104.