WISC-ⅣからWISC-Ⅴの変更点について
ウェクスラー式知能検査は、近年知能を測定するだけではなく多様な認知機能発達の得意な面、
苦手な面といった凸凹を推測するために、とりわけ発達障害の特性把握と支援を目的に使用される
ことが非常に多くなった検査です。
16歳以上の成人向けをWAIS、16歳以下の子ども向けがWISCです。
ウェクスラー式知能検査は常に改訂が重ねられていて、WISCの方は2022年の2月には第5版となる
WISC-Ⅴが発売されています。WISCの方が早く改訂され、数年遅れてWAISが改定されると言う流れに
なっているようです。
当オフィスでも遅ればせながらWISC-Ⅴを導入し始めました。(まだ分析の拠り所となる専門書の類は
日本語版が出揃っておらず、できればもう少し待ちたかったのですが…。)
ウェクスラー式知能検査の改訂はただ問題や統計を時代に合わせるというだけでなく、測定する知能の
概念も含めて改訂が繰り返されているので、言ってしまえばWISC-ⅢのIQとWISC-ⅤのIQでは微妙に
(部分的には大きく)測定しているものが違うといったことが起こります。
それではWISC-ⅣからVとなって大きく変わったなと感じる点を2点だけ、実際に行ってみての感想も交えて
ざっくりとですがご紹介してみたいと思います。
●合成得点の変更
最も目立つ変更点と言えるでしょう。Ⅳでは4つだった合成得点が5つになりました。
合成得点というのは、WISCの検査全体から見る全検査IQとWISC内の検査課題を似た能力を測定している
グループ毎に分けた中で算出した点数のことです。認知機能発達の凸凹を見る場合には合成得点間の差を
見ていきます。
変更点を非常に大まかに言えば視覚的なイメージを扱ったり推理したりする力である「知覚推理」から
立体をイメージしたりイメージを回転させたりする「視空間」と視覚的な手掛かりから臨機応変に推理する
「流動性推理」に分割されたといったところです。
この変更については,確かにWISC-Ⅳ(WAIS-Ⅳもなのですが)を実施していると「同じ“知覚推理”に属する
課題のはずなのに、この課題だけ妙に点数が浮いてしまったな」と良く感じていた部分でした。
そうなると浮いてしまった点数を説明するためにまた分析や解釈をしなくてはならなくなって
結構大変だったのですが、それが概念から整理され、そのような合成得点の中身の課題同士の凸凹は
減るのではないかなと思います。
●ワーキングメモリー概念の違い
合成得点の中でもワーキングメモリーは、特にADHD疑いの場合などに注目されやすく一般的にも
比較的良く知られた概念だと思います。
WISC-Ⅳまでワーキングメモリーは「耳から聞いた情報を記憶する力」でしたが、WISC-Ⅴになると
耳から聞いた情報の記憶力に加えて目で見た情報を記憶する力が含まれている点は大きな違いに思います。
もちろん記憶力には聴覚的なものもあれば視覚的なものもあって、人によってどっちが得意という差があるでしょうし
言われてみればどうしてこれまで含まれて無かったのだろうと思うほどです。
(もちろんこれまでも視覚的な記憶力という見方はありましたが、別の能力を測定することがメインの課題の
結果等から推測する形でした)
これによって多面的な能力であるワーキングメモリーをより実態に即して分析することができ、これまでのWISCでは
見えにくかった得意or不得意がより見つけやすくなったと言えそうです。
その一方で、結果を見た時に、例えば「ワーキングメモリーが高い」という結果の中に実は視覚的記憶力だけが
ずば抜けて高く、聴覚的記憶力は苦手(またはその逆)といった場合が出てくることは注意が必要そうです。
単に「ワーキングメモリーが高い」という結果だけでは特徴を捉えておらず、専門家による解説が
より必要になっているとも言えます。
以上、これ以外にもいろいろ変更点はあるのですが、ちょっと専門的になりすぎるので
とにかく実施していて特に大きな変更だと思った部分だけ感想と言う形で紹介させていただきました。
おそらく今後出版されるWAIS-ⅤもWISC-Ⅴの概念が踏襲されるのかなと思われますが、今回の変更は
検査をとる方にとっても受ける方にとってもより利益を得やすい検査になるのではないかと期待しています。