WAIS・WISCは何をする検査なの?発達障害のときに使われるのはなぜ?
近年よく「発達障害の検査をしてほしい」というお問い合わせをいただきます。
当オフィスでは「WAIS・WISC」は、残念ながら発達障害を判別する検査ではなく、
行っても発達障害かどうかは分かりません。
WAISはウェクスラー式知能検査成人版の略で、子ども(16歳未満)版がWISCです。
定期的にアップデートされていて、現在の最新日本語版は第4版(WAIS-Ⅳ)です。
知能検査なので知能がIQとして算出されます。
クイズ番組やアプリゲームで「これができたらIQ120」なんていうのを目にすることが
ありますが、あれは完全なお遊びで、IQという言葉だけ借りてきて適当につけているのでしょう。
漫画にも「IQ200」などのキャラクターがよく出てきますし、IQは
「絶対的な頭の良さを示すスゴい指数」のように思われているところがありますが
実際には「知能検査の数値」であり、それ以上でも以下でもありません。
さて、WAIS-ⅣはIQの他に「言語理解」「知覚推理」「作動記憶」「処理速度」
という4つの合成得点が出てきます。IQはそれらを総合して算出された数値です。
IQは自分の全体的な能力が周囲と比較してどの程度の位置にあるのかを知る目安として
有用ですが、近年では、上記4つの合成得点それぞれの点数の差、つまり「バラつき」に
注目することが増えました。このバラつきから、自分の得意な能力と苦手な能力を
知ることができます。それを参考にして、得意な能力を活かしたり、苦手な能力を
カバーしたり、どこで助けを求めたらいいのか理解しやすくなったりします。
この「バラつき」は持って生まれた脳の特性なので、「苦手な能力を伸ばす」
という目的で見られることは少ないです。
ASDやADHDなど発達障害の方に見られるいくつかのバラつきの傾向が注目されてから、
発達障害診断の参考としてWAISを取られることも増えました。
そのため「WAIS=発達障害かどうか見る検査」として知られるようになったのかも
しれませんが、実際には上述のとおり診断するために作られた検査ではなく、
むしろ診断が出た後に自分の特性を理解して工夫したり、周囲に理解してもらって
的確な支援につながりやすくなるための検査と言えるでしょう。
当オフィスでは,現在は原則として精神科・心療内科におかかりの方で、情報提供書を
お持ちの方に限りWAISを行っております。
検査についての詳しい結果は主治医には報告しておりますが、解釈の難しい数値的な
データや、細かなデータは支援の専門家以外にはお渡ししないことにしております。
ご容赦いただけますようお願い申し上げます。
Lear Moreネガティブ思考と距離をとろう ~脱フュージョン~
あんなに暑かったのに気温は急に寒くなり、徐々に日が落ちるのも早くなりはじめ、
季節の変わり目は調子が安定しない、なんだか落ち込むという方が多い印象を受けます。
今日はそんなネガティブな気持ちや考えとうまくお付き合いするコツとしてACTを紹介しようと思います。
ACT(アクセプタンスコミットメントセラピー:Acceptance and commitment therapy)とは、
心理的な柔軟性を促進することを目的とした第3世代の認知行動療法と呼ばれるものです。
ACTでは柔軟なメンタルを促進する方法として6つの要素が大切とされていますが、
その一つの要素に“脱フュージョン”というものがあります。
何かの必殺技のようでカッコいい響きですよね。
私たちは常に何かを考えながら生活しているのですが、その考えが自動的に現実生活の
行動に多かれ少なかれ影響を及ぼしていることがあります(これを認知的フュージョンといいます)。
行動にプラスの影響がある考えであれば全く問題ないのですが、ネガティブな考えに
影響されてしまうと思うように動けず辛いですよね。
例えば、“自分はダメ人間だ”という考えが強い人は何かに挑戦してみたい気持ちが沸いても、
その思考にのまれてしまってせっかくのチャンスを逃してしまうなんてことがあるかもしれません。
ACTでは、思考をあくまで頭の中で勝手に作られている物語で、現実とは関係があるかどうかも
定かでない単なる言葉・音の羅列や繋がりにしかすぎないと考えます。
それらの思考に翻弄されずに自分と切り離して距離を置くこと、つまり、認知的フュージョンから
脱する“脱フュージョン”が大切とされています。
脱フュージョンをするための方法としては次のようなエクササイズがあります。
- 言い方を変えてみる:言葉の持つ意味やインパクトが薄れます
・邪魔をしている考えや言葉を何度も何度も早く繰り返し言う
例:だめにんげんだめにんげんだめにんげんだめにんげん…
・逆にものすごくゆっくりと言う
例:だーーーめーーーにーーーんーーーげーーーんーーー
・特徴的なキャラクターの口癖やフレーズのように言ってみる
例:僕ダメ人間なり~
・考えを好きな歌のリズムに乗せて歌詞にする
- ラベルを貼ってみる
・「~と考えた」「~という考えを持っている」を語尾につける
例:私はダメ人間“と考えた”、私はダメ人間“という考えを持っている”
・よく起こる思考や感情に名前を付けて擬人化する
例:あーまたダメ人間くんが大きな声で頭の中で何か言ってるな~、どんな顔で言ってるかな~
- イメージを使ってみる
・考えを空を漂う雲だと思って流れゆくのをイメージする
・考えを川を流れる葉っぱに乗せて流れゆくのをイメージする
・電車の貨物に思考を乗せてビュンと通り過ぎるのをイメージする
・トイレに考えを流すのをイメージする
どうでしょうか。アイデア次第でいろんなエクササイズができます。
かくいう私も文章を書くのがとっても苦手なので、この記事を書き始めた時には
上手に書けるかな…何書けば良いんだ!…読んでもらえるのかな…等々考えに飲まれ不安になり
手が進まなくなっていたので、最近友人がディズニーランドに行ったという話を思い出し
ミッキーマウスマーチのリズムにネガティブな思考を乗せて脱フュージョンのワークをしながら
書いていたのですが、気づけば不安が消えて今はちょっとわくわくした気持ちになっています。
こんな感じでいつでもどこでも手軽にできるものなので、自分にフィットするやり方を
ぜひ生活の中で取り入れてみてください。
とはいえ、なかなか一人で取り組むのが難しいことも多いと思います。
そんな時はカウンセラーと一緒に取り組むのがおすすめです。ぜひお気軽に
こまち臨床心理オフィスにお問い合わせください。
参考図書:ラスハリス(著)、岩下慶一(翻訳)「幸福になりたいなら幸福になろうとしてはいけない:マインドフルネスから生まれた心理療法ACT入門」筑摩書房
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不眠とべき思考
睡眠についての悩みはとても日常的なものです。
健康な時でもその日よく眠れたかどうかで一日の快適さが違うように感じますし、
よく眠れない日が続くとそれだけで憂鬱になるものです。
スマホのアプリストアに並ぶ多種多様な睡眠アプリの数を見ると、いかに多くの人が
良い睡眠を切実に求めているかがわかります。
実際に短い睡眠や長い睡眠(大体6~8時間が適度な時間とされています)は、
様々な健康リスクとの関連が指摘されています。
生物には時間によって体内環境を変化させる体内時計があることが知られており、
良い睡眠はこの体内時計と密接に関係しています。夜になったら明るい光を浴びないこと、
スマホなどを見るスクリーンタイムは減らすこと、そして、朝起きたらまず日の光を
浴びること、などはよく聞くアドバイスではないでしょうか。
平日は短時間しか眠れない分、休日にまとめて寝たりして平日と休日で睡眠時間の
リズムが大幅にずれることは「ソーシャル・ジェットラグ」と呼ばれ、体内時計を
乱すことが分かっています。具体的には体内時計が後退して休み明けに起きられなかったり、
眠気が取れなかったりします。
しかし、眠るというのは難しいもので、短い睡眠に健康リスクがあると言われると
「最低でも6時間は寝なきゃいけないのに!」と焦ってしまい、かえって眠気が逃げて
行ってしまうものです。
「べき思考」という考え方(認知)のクセを以前紹介しましたが、切実に眠りたいと願う人ほど
眠りに対する「べき思考」、つまり「最低でも6時間は寝るべき」という思考に陥りやすくなります。
6時間を切ってしまった後は「最悪でも5時間は…」と思っては、結局5時間を切っても焦るばかりで
眠気がやってこない場合もあるかもしれません。
よりよく眠るコツとしては、20分経っても眠気が来ないようなら、いったん起きてしまうのが良い
と言われています。眠りに対するべき思考から意識を離すために、読書やホットミルクを飲むなどの
激しくない軽い活動をしてみましょう。この時も部屋を明るくしすぎたり、スマホを見たりするのは
避けた方が良いでしょう(とはいえ中にはスマホを見ている方が入眠しやすいとおっしゃる方もいます。
悩みから意識を離す役に立つなら良いのかもしれません)。
そうして気持ちがリラックスしたり眠気を感じたら、ゆっくり布団に戻ってみます。
理想的なリズムで生活できたらそれは一番良いかもしれませんが、理想をいきなり掴もうとしても
体内時計はすぐには変わってくれません。そんなときには自分が「7時に起きるべき」「22時に寝るべき」
といったべき思考に捉われてしまっていないか振り返ってみましょう。
そうして、まずべき思考から離れて、「無理なく起きられる時間」「無理なく布団に入れる時間」を
設定してみましょう。本当に無理の無いくらいが良いでしょう。
それができたら少しずつ、20分や30分ずつ、理想の時間に近づけてみましょう。
Lear More会社で働くこととパワハラ
ハラスメントと言う言葉は以前からありましたが、昨今の啓発の影響で私たちは様々なハラスメントが
あることを知るようになりました。
パワハラ・セクハラ・マタハラ・カスハラなど、非常に多くの種類のハラスメントが名づけられています。
2020年の厚労省の調査によると、日本で働く人々の中で3年以内にパワハラ受けた人の割合は
31.4%となっています。これを多いと感じる人もいれば、少ないと感じる人もいるかも知れません。
ただ3人に1人が3年以内にパワハラを受けたことがあるとしたら、それはとても身近で誰もが
遭遇する可能性があると言って差し支えは無いでしょう。
実際に働く人のカウンセリングのテーマとしても決して少なくありません。
パワハラと聞くと、上司が一方的に部下を怒鳴りつけるとか、殴ったり、ものにあたったり、
または無理難題や過剰な仕事を押し付けると言ったシチュエーションを思い浮かべるかもしれません。
しかしそれだけではなく、仕事を与えないことや仕事から外して疎外すること、関係ない私物や
プライベートをチェックすることなどもパワハラとされます。
このような状況を受けて国も対策を講じています。今年の4月には改正労働施策総合推進法、
いわゆるパワハラ防止法が中小企業の事業主においても義務化されました。
パワハラ防止法では、事業主に雇用管理上必要な措置としてパワハラ防止の社内方針の
明確化と周知、また苦情などに対する相談体制の整備などを義務付けています。
パワハラは会社・家庭(家庭の場合はDV、虐待など名前が変わるかもしれませんが)など
閉鎖された環境下で行われる怖さがあります。
会社という組織で上下関係が全くなく全員がフラットというのはあり得ません。
その会社の一員として内部にいると、立場上状況を受け入れざるを得ないと感じます。
この辛い状況は「社会では当たり前のこと」で、それに耐えることが出来ない自分がおかしいのだ、
いけないのだ、と自分を責め、抱え込んでしまう場合も少なくありません。
ハラスメントに関する非常に豊富な啓発資料が掲載されています。
中にはVRパワハラ・VRセクハラなど、ハラスメントを疑似体験できる(したくないと思いますが)
コンテンツもあったりなど、今、身近で行われている事柄がハラスメントかもしれないと
気が付くためのコンテンツが手に取りやすいよう工夫され揃えられています。
これらのコンテンツに触れ「自分の置かれている環境がおかしいのかも」と思ったら、
これまでの環境に馴染めない自分を責める考え方からすこし距離をとって耐えられないのは
パワハラだったからなのではないか、と思い直してみるとこれまでとは違った対処方法が
見えてくるかもしれません。
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