自尊感情は高ければ良いわけじゃない?-自尊感情の随伴性-
自尊感情、自信、私たちはいつもこういったものが自分には不足していると感じていて
どうしたらこれらを高めることができるのだろうかと日々苦悩しています。
そのため、カウンセリングのテーマとなることも非常に多いです。
しかし心理学の研究では、自尊感情が高い場合でも、それが適応にとって良い場合と
悪い場合があると言われています。
自尊感情が高くても適応に問題が出るのはどんな場合かと言った時に、自尊感情の随伴性という
考え方が出てきます。
他者の評価などの外的なものに依存して高くなる自尊感情のことを「随伴性自尊感情」と言い、
これは不安定なものなので、高くてもあまり健康的なものではないとされています。
とはいえ、自尊感情はそもそもどんな場合であっても少なからず何らかの基準が必ず随伴している
ものだとも言われていて、その中でも外見や評価といった外的なものが随伴している自尊感情は、
たとえ持っていたとしても気分としては落ち込んだりしやすいと言います。
一方で神の愛などが随伴している場合には抑うつ傾向との関連は見られませんでした。
キリスト教圏で行われた研究の結果なので「神の愛」というのは我々日本人の多くからすれば
馴染みにくいと思いますが、キリスト教では人はみな神の子であり、みな神に愛されているとされます。
これを前提とした考えは確かに、他人との比較や他者評価といった外的で不安定なものとは異なるのだろうと思います。
私たちが「自信が欲しい」「自尊感情を高めたい」と思う時、他者からの評価を前提とした外的なものが随伴した
自尊感情を求めている場合があるかもしれません。随伴性自尊感情の方が、表面的にはキラキラしていて
周囲も注目も、そして自分の注目をも集めるのでしょう。「自信がない」というのも「他者から認められていない」
「他者からの評価を失うのが恐い」という意味とイコールになっている場合もあるのではないでしょうか。
より健康的とされる自尊感情は外的な評価とは関係なく自分を「よし」とするところにあって、
自分らしくあることで自然に出てくるものとされています。
そう言われても難しい気がすると思いますが、カウンセリングを通して取り組んでいくことも可能です。
随伴性自尊感情を求める気持ちから離れることが、かえって、結果的により健康的な自尊感情に近づくための
方法となりえるかもしれません。
参考文献:
伊藤正哉 & 小玉正博 (2005)
自分らしくある感覚 (本来感) と自尊感情が well-being に及ぼす影響の検討. 教育心理学研究, 53(1), 74-85.
伊藤正哉, 川崎直樹, & 小玉正博 (2011)
自尊感情の 3 様態── 自尊源の随伴性と充足感からの整理──. 心理学研究, 81(6), 560-568.
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※この研究は、千葉大学医学部倫理審査(受付番号3938)によって実施を許可されました。
※この研究はJSPS科研費 JP19K14412の助成を受けたものです。
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新型コロナ感染症と心の悩み、夫婦関係、親子関係について
昨今は新型コロナ感染症に伴い、長時間自宅で過ごされる方が多くなっていると思われます。
出かけようにも遠くへ行くのは不安だし、感染の危険もあることから、外出を控えたり、
テレワーク等で出勤しなくなって、どうしても自宅でいる時間が長くなります。
そうなったとき、今までは適当に外で発散していたフラストレーションが溜まってしまい、
結果的に家の中に表出されてしまうことがあります。そうなると、家の中の空気が
ギスギスしてしまい、さらにストレスが溜まってしまうといったことになるかもしれません。
しかし、長時間家にいることはマイナスな影響しかないのでしょうか?
実は今まであまり家でゆっくりと一人の時間を過ごせていなかったり、夫婦や親子で顔を
合わせる時間が少なかったといった方々は結構いらっしゃると思います。
特に夫婦関係や親子関係の場合、今まで見えていなかったことが見えて、新しい発見となり、
そこからお互いの理解がさらに深まって関係性が深まるといったことを時々耳にします。
ただ、今まで外で適当に発散できたことで、あまり見ないようにしていたお互いへの不満や、
家族や夫婦の中で抱えている問題といったことが表に出てくることもあります。
そうすると、相手への不満や怒りが強くなったり、不安が強くなったりしてしまい、
強いストレスを感じるようになってしまうこともあるかもしれません。
しかしこういった状況は、自分たちが抱えている問題を自覚し、その問題に向き合うことが
できるチャンスでもあると思います。
現状への不満や不安は、現状を何とかしたい、変えたいというモチベーションに繋がりやすく、
そういったモチベーションをうまく使うことで、今まで未解決でいた問題が解決したり、
解決しないまでも取り組んだりできるようになることもあります。
そういう家族関係や夫婦関係、親子関係の問題に取り組むためには、
まずはお互いがじっくりと話し合い、お互いへの理解を深めることが必要です。
しかし、話がかみ合わなかったり、ケンカになってしまったりとなかなかじっくりと
話し合うことが難しい場合があります。そういった悩みを持った方々が、
よくカウンセリングに来られることがあります。
カウンセリングでは問題や悩みへの理解を深めるサポートをしています。
カウンセリングは問題の解決を保証するものではありませんが、理解が進むことで問題が整理され、
今後どのようにしていけばよいかについてのお手伝いをしていければと思っております。
Lear Moreスキーマと認知 -認知のクセの背景にあるもの-
認知行動療法では、主に認知と行動のクセを扱っていきます。
認知行動療法で扱う認知は「自動思考」とも呼ばれます。
これは自分で「今日のご飯は何にしようかな」など意図的に考えるのではなく、
何らかの刺激に対する反応として自動で浮かんでくる考えという意味で名付けられています。
私たちは日々、大変多くの自動思考を浮かべながら生活していると言われています。
一日のうちで、本当に何も考えずに無心でいる時間がいったいどれくらいあるでしょうか。
きっとほとんどないのではないかと思います。それだけ私たちの生活は大小の刺激にあふれていますし、
人間は考えることがたくさんある生き物だと言うことが言えるかもしれません。
さて、認知行動療法では自動思考の背景として「スキーマ」というものを想定しています。
「スキーマ」は自動思考のベースとして存在する思考の鋳型と言う風に説明されます。
鋳型と言うのは溶かした金属をそこへ流し込んで形を作るためのもので、金属は鋳型に流し込んで
冷やせば鋳型の形になって取り出されます。
それと同じように、自動思考は日々生活する中でポンポンと浮かんできますが、それらは
そもそもスキーマという鋳型から生み出されるので、いずれもスキーマの影響を受けて
スキーマに似た形、つまり似た考えになっていると言います。
スキーマは幼少期の経験を通して形成されると言われています。
例えば幼少期に自分を守ってくれるはずの大人たちから攻撃されて育ったAさんは
「自分は意地悪な他人に攻撃されて、やられてしまう」というスキーマが発達するでしょう。
そうすると、自動思考はそれらのスキーマを通って出てきますから、Aさんの自動思考は
「あいつは自分を馬鹿にしてるんじゃないか」「自分のことを嫌ってるからこういうことを言うんじゃないか」
といった「他人は敵だ」「身を守れ」という色を帯びることが増えるかもしれません。
スキーマは自動思考以上に本人にとっては「そう考えるのは当たり前のこと」に感じられるので、
自分でその考え方が極端だと気が付くのは困難です。
Aさんにとって、他人が自分を攻撃してくる世界と言うのは極端には感じられず、むしろ経験に
裏付けられた真実であり、当たり前なのです。それだけにスキーマを変えることは非常に難しいと言われています。
スキーマに取り組むためのスキーマ療法という技法も試みられてきていますが、それもまた一朝一夕で
どうにかなるというものではなく、それなりに長い取り組みとなります。
人は誰でもスキーマを持っていますし、多くの場合はスキーマに直接触れなければいけないわけではありません。
まずは自動思考(認知)のクセに気が付き、そのクセに取り組んでみましょう。
その中で自分がどのようなスキーマを持っているのか、徐々に認識できるようになれるかもしれません。
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