羨望と嫉妬
世の中には、様々な形での心理的攻撃があふれています。
人が人を攻撃する心理とは、どのようなものなのでしょうか。
今回は、「羨望」と「嫉妬」の概念について紹介します。
ネット上の書き込みによる誹謗中傷のニュースを目にするたびに、気持ちが少し落ち込みます。
最近では、オリンピック選手に対する誹謗中傷の内容がネット上に多く書き込まれ問題となっています。
芸能人の不適切な言動へのバッシングも非常に強いものになっています。
正論を掲げて、その時に非があるように見える人を叩く時、人間の脳では快感を強く感じるそうです。
そういった快感や自己の優位性に浸る感覚は麻薬のように癖になるものかもしれません。
そして、人がそういった「その時に非があるように見える人を叩く」行動に駆られる背景には、
臨床心理学の概念の1つである「羨望」があるかもしれません。
「羨望」と「嫉妬」は似たような意味をもつと思われやすいですが、臨床心理学では違った意味をもつ言葉です。
「嫉妬」は三者関係の中で生じる妬みの感情です。例えば、AさんとBさんは友達ですが、Aさんばかりが
C先生に可愛がられていて、Bさんは「Aさんばっかりズルい、ムカつく」と思う場合です。
どうしてその気持ちが生じているのかが、比較的理解しやすいものです。
一方で、「羨望」とは、二者関係の中で生じる感情です。例えば、AさんとBさんは友達ですが、
Aさんはとびきり美人で性格が良いです。Bさんは内心、Aさんを妬み、憎む気持ちをもっています。
BさんはAさんと一緒にいるとモヤッとした気持ちになりますが、それが強い憎しみの感情だとは自覚していません。
そういった時に、Bさんは自覚が薄いまま、Aさんを攻撃するような言動を取ってしまいます。これが「羨望」です。
相手の中にある良いものを壊してやりたいという欲求を伴うのが「羨望」です。
「羨望」の厄介な点は、相手への妬み・憎しみの感情が自覚されないままに、相手への攻撃に駆られてしまうことが
あるということです。
自分の行動のコントロールが効かなくなるというのは、良いことではありませんよね。
思いがけず、相手を攻撃してしまう言動を取ってしまった時、自分の中に相手への「羨望」がないか、
自分の心に問いかけてみてもいいかもしれません。
Lear Moreコンパッションはトーンに宿る
コンパッション(慈悲/思いやり)は、これまでも何度か取り上げてきましたが、
最近ではチームをまとめるリーダーにとっても大切なスキルと言われるようになってきました。
コンパッションには、
「相手にコンパッションを向ける」
「相手からのコンパッションを受け取る」
「自分にコンパッションを向ける」
以上3つの方向性があると言われていて「自分にコンパッションを向ける」ことを特に
「セルフ・コンパッション」と言います。セルフ・コンパッションが注目されることが多いですが、
3つの方向性を見てみると、リーダーにとってはそのどれもが大切なものであるように思われます。
チームと呼ぶと堅苦しいですが、相手に思いやりを持つこと、また、相手からの思いやりに気が付いて
それを大事に受け取ることなどは、夫婦関係、親子関係、友人関係などでもお互いのQOLを
高めるために大切な要素と言えるでしょう。
さて、そうは言っても「コンパッション」「慈悲」「思いやり」どの言葉をとってみても
なんとなくは分かるけれど、とらえどころがなく、「どうやったらおもいやりって示せるんだろう」と
悩んでしまうのではないでしょうか。
心理学の世界にコンパッションを取り入れたイギリスの心理学者ポール・ギルバート博士は
考え方を切り替えたり、これまでとは違った考え方をしたりすることを促すカウンセリングに
取り組んでいる時、バランスの取れた考え方を持てたはずのクライエントさんなのに
気持ちが全く変わっていないことに気が付きました。
実はバランスの取れた考え方を思い付きはしたものの、頭の中に響くその考えの“トーン”が
これまでのネガティブな考えの時のものと全く変わっていなかったのです。
トーンというのは不思議なものです。「大丈夫だよ」という言葉を一つとってみても
① 何度も何度も「大丈夫なの?」としつこく念を押されて怒って返す「大丈夫だよ!」
② まったく大丈夫じゃないけど後には引けないと思い詰めて絞り出す「大丈夫だよ」
③ 落ち込んでいる大切な人を慰めるために、心から伝える「大丈夫だよ」
頭の中で響くトーンは全然違うのではないでしょうか。
(『はぁっていうゲーム』と似ているかも知れませんね)
トーンだけでなく、表情も、声の大きさ、速さまだ違っているのではないかと思います。
コンパッションのワークをするときには、自分や、相手に言葉をかける時にも
トーン、表情、大きさや速さに注目して、思いやりを持ったトーンで話すように試していきます。
自分や相手にどんなふうに思いやりを示していいか分からない時には、
自分の言葉のトーンや表情に注目してみましょう。
そして、心から思いやりを持った自分だったら、どんなトーンで、どんな表情で話すかイメージしてみましょう。
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