新型コロナ感染症後の社会への再適応について
新型コロナ感染症も2類から5類になり、出勤や通学、旅行のために電車に乗る人々も増えてきて、
社会が以前の状態に戻ってきているように感じられます。
マスクを着けている人も、少し前までのほぼ100%着けている状態から、ちらほらつけていない人も
見られるようになり、その変化を実感せずにはいられません。
そういった以前の状態を取り戻しつつある社会状況の中で、社会生活を送る人々が心理的にも前の状態に
戻るのかということについては、必ずしもそうではないのではと思われます。
それは、新型コロナ感染症拡大前⇒①感染症が2類になり、
施設や企業、学校での自粛が始まった後⇒②感染症が5類になり、
自粛が減った社会に変わること、といった一度コロナ禍の社会に適応した人々が、
さらにコロナ禍後の社会に再適応を求められる状況だと思います。
適応とは、その状況や環境に合わせて、行動を変えたり、自分を変えていくことなので、
変化には常にストレスが伴うため精神的に不安定になりやすい状態であり、感染症が2類になった①の
状態が数年続いたため、その環境に苦労して適応した人々が、感染症が5類になる②の状態になり、
更に再適応を迫られる、ストレスを感じやすい状況であるのは確かだと思います。
もちろん、コロナ禍が緩んで、旅行やアクティビティーに出かけやすくなり、ストレスを解消しやすく
なっているのは間違いなく、ポジティブな方向での適応ではあると思われます。
ただ、例えそれが社会的に良いと思われていること、例えば進学、就職、結婚、昇進といった
イベントであっても、例で言えば昇進うつやマリッジブルー等、うつになる要因として挙げられることから、
そういったポジティブな変化をストレスと感じる人もいるのではないでしょうか。
再適応に対して適応疲れによるストレスを感じていたり、コロナ禍を経て急激に
変化した社会への適応に困っている方々は、カウンセリングで話し合いをしながら
新しい社会環境にうまく適応していく道を探してみるのはいかがでしょうか。
Lear Moreコンパッションを取り入れた認知行動療法って?
「同情するなら金をくれ」という有名すぎる言葉のおかげで、「同情」という言葉は随分価値下げされて
しまったんじゃないかと思います。
コロナウィルスの感染拡大が終息したわけではありませんが、各種イベントの復活、マスク着用の緩和など
コロナウィルス感染への意識はこれまでとだいぶ変わった感があります。
そんな中、当オフィスでもかなり開催間隔を空けていた集団認知行動療法プログラムを積極的に
開催していくことになりました。
現在、「コンパッションを取り入れたうつ病の集団認知行動療法(https://www.komachicp.com/cbgt/)」の
参加者を募集中です。
このプログラムは少し前から開催していて、当時もコンパッションについて触れています。参照
「コンパッション」とは「慈悲」とか「思いやり」と訳されることが多いですが、仏教で用いられる
「慈悲」という言葉が起源となっています。
「生存者が苦しんでいるのに同情する時が「悲」であり、苦を抜いてやろうと決心する時が「慈」なのである。」
(中村元『慈悲』講談社学術文庫)
この定義は、ほとんどそのまま心理学で言う「コンパッション」の定義と一緒です。つまり、悲しいとか苦しいとか、
そういった思いや感情についてきちんと向き合って(「悲」)、向き合ってちゃんと感じるからこそ心の中に沸いてくる
「なんとかしてやりたい」という素直な思いに従って「なんとかしてやろう」と決心すること(「慈」)です。
最近特に注目されている「セルフ・コンパッション」は、実はもうちょっと色々な要素を取り込んだ定義なのですが
ここのところは大元の起源として共通する部分のはずです。
悲しいとか、苦しいとか、悔しいとか思ってしまうことで、自分を非難したり、そう思わせる世界を非難したりすると
いつまでもそこに留まってしまいます。
「コンパッションを取り入れたうつの集団認知行動療法」では、このコンパッションをちょっとずつ理解して
ちょっとずつ実践し、自分の中にコンパッションを育むことを目指すプログラムです。
コンパッションの実践には、
「他者にコンパッションを向ける」
「他者からのコンパッションを受け取る」
「自分にコンパッションを向ける」の3つの方向性が存在します。
認知行動療法は自分の考え方、行動のパターンについて理解して、それを(必要なら)より「合理的」
「バランスの取れた」ものに変えていくことを目指します。
一方でコンパッションのプログラムは、その考え、行動のパターンを、より「コンパッション」なものに
していくことが目標です。そこには、自分の「考え」や「行動」に留まらず、自分の苦手とする「感情」に
ついても逃げずに向き合うという勇気が伴います。
そのため心理学の世界では、コンパッションの要素は特に「自己批判」「恥」が強いばかりに様々なセラピーの
効果が芳しくない人々に有効な方法だと考えられ、考案されてきました。近年では「怒り」などの自分で
扱うことが難しい感情に対するアプローチとしても積極的に取り組まれています。
「コンパッション」という言葉がどうも肌になじまないな、と感じる人こそ、このプログラムが何かに役立つ
きっかけになるかもしれません。
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悩みを自分で抱える力
「今日はなんとなくパスタが食べたい」「今日はなんとなくこっちの服にしよう」
そういう“なんとなく”思うこと、感じることってありませんか?
「あれが食べたい」とか「こっちの服がいい」というポジティブな感情なら
問題に感じることは少ないかもしれません。しかし、「なんとなくイライラする!」
「なんとなくもやもやする…」という気持ちが積もり積もったり、大きくなりすぎたりすると
困ってしまうかもしれません。
その時に、「なんでこういう気持ちになるんだろう?」と自分で考えられること、
つまり、“悩みを自分で抱える力”というのが大切になってくるのだと思います。
逆に、悩みを自分で抱えられない・抱えきれない状況になると、
身近な人や物に八つ当たりをする、他人や環境のせいにする、
すぐさま状況を打開しようと闇雲に行動する…ということになるかもしれません。
あるいは、不安や苦痛を和らげようともがいているうちに気づけば、お酒や薬、ギャンブル、
買い物、性行為などに依存していたり、自傷行為を繰り返したりしているかもしれません。
そういう「なんとなくイライラする/もやもやする」という気持ちは、不安や悩みの種が明確に
なっていない、あるいは、明確になると葛藤が出てきてもっと辛くなってしまう、という
状況なのかもしれません。
そのため、“悩みを自分で抱える力”というのは、“葛藤を自分で抱える力”とも言えるでしょう。
なんだか曖昧でよく分からない、と思われた方もいるかもしれませんね。
つまり、“なんとなく”感じていることの、その“なんとなく”について
「どうして自分はそう感じているんだろう?」と考えてみる、ということです。
そうやって自分について考えて悩んでいるうちに、「自分って本当はこういう人間だったんだ」と
気づいたり、「これが原因かと思っていたけど、本当はもっと別のことが引っかかっていたんだ」
ということが見えてきたりします。
自分で自分を理解するということは意外と難しいことですが、なかなか面白いことだと思います。
そしてそれは、人生を豊かにしていくことにつながると思います。
カウンセリングでは、来談者の方が自分を理解したり、悩みを自分で抱えたりすることのお手伝いをします。
自分のことをもっと理解したい、悩みを自分で抱えるのが辛いという方は
ぜひ当オフィスにお問い合わせしてみてください。
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WISC-ⅣからWISC-Ⅴの変更点について
ウェクスラー式知能検査は、近年知能を測定するだけではなく多様な認知機能発達の得意な面、
苦手な面といった凸凹を推測するために、とりわけ発達障害の特性把握と支援を目的に使用される
ことが非常に多くなった検査です。
16歳以上の成人向けをWAIS、16歳以下の子ども向けがWISCです。
ウェクスラー式知能検査は常に改訂が重ねられていて、WISCの方は2022年の2月には第5版となる
WISC-Ⅴが発売されています。WISCの方が早く改訂され、数年遅れてWAISが改定されると言う流れに
なっているようです。
当オフィスでも遅ればせながらWISC-Ⅴを導入し始めました。(まだ分析の拠り所となる専門書の類は
日本語版が出揃っておらず、できればもう少し待ちたかったのですが…。)
ウェクスラー式知能検査の改訂はただ問題や統計を時代に合わせるというだけでなく、測定する知能の
概念も含めて改訂が繰り返されているので、言ってしまえばWISC-ⅢのIQとWISC-ⅤのIQでは微妙に
(部分的には大きく)測定しているものが違うといったことが起こります。
それではWISC-ⅣからVとなって大きく変わったなと感じる点を2点だけ、実際に行ってみての感想も交えて
ざっくりとですがご紹介してみたいと思います。
●合成得点の変更
最も目立つ変更点と言えるでしょう。Ⅳでは4つだった合成得点が5つになりました。
合成得点というのは、WISCの検査全体から見る全検査IQとWISC内の検査課題を似た能力を測定している
グループ毎に分けた中で算出した点数のことです。認知機能発達の凸凹を見る場合には合成得点間の差を
見ていきます。
変更点を非常に大まかに言えば視覚的なイメージを扱ったり推理したりする力である「知覚推理」から
立体をイメージしたりイメージを回転させたりする「視空間」と視覚的な手掛かりから臨機応変に推理する
「流動性推理」に分割されたといったところです。
この変更については,確かにWISC-Ⅳ(WAIS-Ⅳもなのですが)を実施していると「同じ“知覚推理”に属する
課題のはずなのに、この課題だけ妙に点数が浮いてしまったな」と良く感じていた部分でした。
そうなると浮いてしまった点数を説明するためにまた分析や解釈をしなくてはならなくなって
結構大変だったのですが、それが概念から整理され、そのような合成得点の中身の課題同士の凸凹は
減るのではないかなと思います。
●ワーキングメモリー概念の違い
合成得点の中でもワーキングメモリーは、特にADHD疑いの場合などに注目されやすく一般的にも
比較的良く知られた概念だと思います。
WISC-Ⅳまでワーキングメモリーは「耳から聞いた情報を記憶する力」でしたが、WISC-Ⅴになると
耳から聞いた情報の記憶力に加えて目で見た情報を記憶する力が含まれている点は大きな違いに思います。
もちろん記憶力には聴覚的なものもあれば視覚的なものもあって、人によってどっちが得意という差があるでしょうし
言われてみればどうしてこれまで含まれて無かったのだろうと思うほどです。
(もちろんこれまでも視覚的な記憶力という見方はありましたが、別の能力を測定することがメインの課題の
結果等から推測する形でした)
これによって多面的な能力であるワーキングメモリーをより実態に即して分析することができ、これまでのWISCでは
見えにくかった得意or不得意がより見つけやすくなったと言えそうです。
その一方で、結果を見た時に、例えば「ワーキングメモリーが高い」という結果の中に実は視覚的記憶力だけが
ずば抜けて高く、聴覚的記憶力は苦手(またはその逆)といった場合が出てくることは注意が必要そうです。
単に「ワーキングメモリーが高い」という結果だけでは特徴を捉えておらず、専門家による解説が
より必要になっているとも言えます。
以上、これ以外にもいろいろ変更点はあるのですが、ちょっと専門的になりすぎるので
とにかく実施していて特に大きな変更だと思った部分だけ感想と言う形で紹介させていただきました。
おそらく今後出版されるWAIS-ⅤもWISC-Ⅴの概念が踏襲されるのかなと思われますが、今回の変更は
検査をとる方にとっても受ける方にとってもより利益を得やすい検査になるのではないかと期待しています。
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