自分史づくりとカウンセリング
先月になりますが、このようなニュースがありました。
もともと認知症予防として活用されていた自分史づくりが、
就活での自己分析や、自己PR、社員研修などに役立つとして注目されている
といった内容でした。
実際に「自分史 就活」で検索すると自分史作りを紹介する様々なサイトがヒットします。
いくつかのサイトを見てみると、自分史づくりの目的は「自分の過去を振り返り
自分の行動パターンや大事にしている価値観を見つける。再認識する。」ことのようです。
さらには、そうすることによって自分の強み、アピールポイントを見つけることができれば
そのまま就職活動に活かすことができるわけです。
確かに人は、自分がこれまでどんな経験をしてきて、それが自分にとってどんな意味を持って
いたのかといったことは、案外深く考えずに生きてきているものです。
「自分史づくり」を通して、自分の意外な行動パターンや価値観にはじめて気が付くというのは
決して珍しいことではないでしょう。
このような「自分史づくり」は、カウンセリングのはじまりと似たところがあるかもしれません。
カウンセリングでも、最初の数回のセッションをかけて、その方のこれまでの歴史をお聞きして
いくことがよくあります。これはただ儀礼的に昔の話をしてもらっているわけでも、過去に問題が
あるせいだと決めつけたくて聞いているわけでもありません。
これをするのにも様々な理由があるのですが、「これまでの行動パターン」や「人との関係の持ち方
のパターン」「大事にしてきた価値観(生き方のパターン)」を知っていくというのは、
その理由のうちの大事なひとつです。
ただしカウンセリングの場合は、そうすることによって自己PRを作成するためではなく(そうである
場合もあるかもしれませんが)その情報をカウンセリングにやって来られた方が「今、現在」困って
おられる事柄の内容と照らし合わせながら考えていくことに活かしていきます。
現在の困りごとが過去のパターンと意外なほどよく似ている、ということがままあるからです。
そのように最終的な目的には違いがありますが、「その人のパターン」を知っていくという点では
就活での自分史づくりとカウンセリングのはじめに過去のお話を聞くことは共通している部分が
あるのだと思います。
その意味では、カウンセリングの数回のセッションはカウンセラーと一緒に自分史づくりをしている
といった見方もできるのかもしれません。
Lear More考え方のクセ①「べき思考」
認知行動療法は、問題やストレスを増大させている認知(=考え方)の癖、行動の仕方の癖をみつけて
それをよりストレスや問題の少ないものへと変化させていく方法です。
認知行動療法についてご存じの方は「認知の歪み」という言葉をご存じかもしれませんが、
これは「問題になることが多い考え方の癖」ということです。
その中の1つが「べき思考」です。
「ああすべきだ」「こうするべきだ」「こうするべきではない(してはいけない)」と、「べき」と言う
言葉を使って自分の行動や相手の行動を批判したり、縛ったりする考え方です。
例えば「人に良くしてもらったら、自分もそのようにして返すべきだ」という考えはとても
素晴らしい考えです。
みんながそのように考えて生きていくことができれば、世の中はもっともっと良くなっていくことでしょう。
しかし、もしこの考えが「べき思考」になって自分の中の絶対に守らなければいけないルールと
なっていたらどうでしょうか。
常にこの考えの通りに生きていければ何も問題はありませんが、場合によってはそうできない時もあるでしょう。
相手に良くしてもらっているのに、自分からは何もお返しが出来ないように感じることも出てくるかもしれません。
そのような時に、このべき思考を信じて生きてきた人は、「自分はとても駄目な人間で、すべきことができていない
どうしようもないやつだ」と思って落ち込んでしまうかもしれません。
世の中は本当にいろいろなことが起こるので、一つの考えや信念を、常に守って生きていくのは不可能なものです。
それでもその考えを全うしようとするとしたら、それは「極端な考え方のクセ」になっていると言えるかもしれません。
けれど自分の中ではごく当たり前、当然の考えなので、それがやや「極端」で「考え方のクセ」になっている
ことにはなかなか気が付きません。
もし、自分自身の生き方を振り返ったときに、自分の中に「~すべき」「~すべきでない(してはいけない)」という
考えに気づいたら、その考えが自分にとってどの程度強い(強固な)ものか。また、その考えを大事に持つことが、
自分の人生にとってプラスになっているか、マイナスになっているか、考えて見ると良いでしょう。
もちろん、マイナスになっているからと言って、その考えが間違っている、その考えを捨てろというのではありません。
その考えを、少しだけマイルドにできないか考えて見ましょう。
※「べき思考」へのアプローチの1つとして・・ 「認知再構成法」について
Lear MoreSNSと心理的なストレス
Twitter、LINE、 Facebook、 Instagram、いずれもSNSと呼ばれるサービスですが、
これらのいずれもを一度も見たことも使ったことも無いという人はおそらくもういないのではないでしょうか。
それくらい現代社会においてSNSは人々の生活に不可欠なものとなっています。
心理学の世界においても、現代社会に暮らす人々の心理について考える時、SNSの影響はもはや触れざるを得ない
ものと言えるでしょう。
特にSNSにあまり馴染みがない世代からすればSNSでのコミュニケーションはまだしも、そこで友達ができると
いった関係性の発展には疑問を感じる面もあるでしょう。
「SNSでしかやりとりをしていないけれど非常に仲の良い親友がいる」と言われても、それがどのようなものなのか
理解しきれないかもしれません。しかし、現在ではこのようなSNS上の関係性はごく自然なものとなっています。
藤野(2017)は20歳前後の若者を対象に、SNSが「居場所」になり得るのかについての研究をしていますが、
SNSでの関係性は現実に知り合っている友人との関係性と同等の「居場所感」を有することが明らかとなっています。
ただし、現実の「居場所感」の方は、それが強いほどメンタルヘルスを示す心理的Well-beingが高くなる一方で
SNSの「居場所感」はそのような関係性が見られませんでした。
また、都筑ら(2018)はLINE、Twitterに関しては知人からの受信の頻度が多くなるほど使用時の不満度が増大する
ことを示しています。Instagramでは利用頻度が多いほど不満度が上がるようです。
もちろんSNSには積極的に利用することで人生満足度を向上させる効果があるなど良い側面を示した研究もたくさん
あり、非常に有用なコミュニケーションツールであることは間違いありませんが、使用する頻度や時間が増大
していく中で次第に自発性や主体性が失われると、いわゆるSNS疲れに繋がるのではないでしょうか。
現実の人間関係と同様に適度な距離感が必要なのかもしれません。
しかしSNSは現実と同じくらいに「居場所感」が得られるからこそ、それがストレスに感じた時「見なければ良い」
「SNSを止めればいい」などと簡単に切り離したり距離を取ったりできないものであるとも言えるでしょう。
SNS上の対人関係のストレスにおいても現実の人間関係上のストレスと同様に、個人的な問題だからと抱え込まずに
他の誰かに相談する、話を聞いてもらうことを考えてみるのも良いのではないでしょうか。
引用文献;
藤野千種 (2017) SNS を介したインターネット上での心理的居場所と well-being の関連
神戸大学発達・臨床心理学研究, 16, 14-18.
都筑学,宮崎伸一, 村井剛, 早川みどり, 永井暁行, & 飯村周平. (2018).
大学生における SNS 利用時における心理的ストレスの研究―LINE, Twitter, Instagram の比較を通じて―.
中央大学保健体育研究所紀要, 36, 33-59.
Lear More怒りと上手に付き合う「アンガーマネジメント」
ここ数年、芸能人や政治家が自分の問題を改善するために取り組んでいることが
ワイドショーなどでも取り上げられ、何かと耳にすることが増えてきた「アンガーマネジメント」。
TVに取り上げられるような大きな事件やトラブルになることは無くても、
人と喧嘩や言い合いになってしまいやすい、そこまでするつもりはなかったのに相手を非常に強く叱責してしまう、
と言った経験に悩んでおられる方もおられるのではないでしょうか。
怒りへの対処法は「アンガーコントロール」「アンガーマネジメント」など様々な呼び方がありますが
これらは、いつでも怒りをオフにできる、とか、全く怒りを感じない人間になる、ということを
目指すわけではありません。もともと怒りは脳の本能的な反応で、他の感情と同じく必要なものです。
怒りを全く感じなければ脅威から自分を守れなくなってしまいます。もちろん、怒りの感情を抑え込める
ようになることを目指すわけでもありません。
体験されている感情を無理やり抑え込もうとすることは、かえって気持ちを落ち込ませたり身体にも余計な
負担がかかってしまったりと、あまり良くないことが分かっています。
無理に怒りを抑えるとうつ病になりやすくなる、と言った報告もあります。
「アンガーコントロール」「アンガーマネジメント」の目的としては「怒りの感情と上手に付き合う」と
いった表現があり、感覚的にも理解しやすいのではないかと思います。
怒りの対処法について、Meichenbaumは以下のようなステップをあげています。
①認知的準備期:怒りが喚起される状況の前と最中の考え方を、合理化、組織化する。
②スキル習得期:アサーティブトレーニングやソーシャルスキルトレーニングなどを通じて
状況に異なった方法で対処することを学ぶ。
③適用訓練期:学んだスキルを想像、ロールプレイ、あるいは実際の場面で実践に移す。
怒りの対処法については現在様々な方法が発展してきていますが、その多くが最初のステップとして
「怒りに対する認知=考え・考え方・信念」へのアプローチを取り入れています。
怒りの状況や自分がどうしてその時に怒ったのかということについて客観的に見られるように
なっていくということです。怒りを感じた当初は「怒らせた相手が悪い!」としか考えられないかも
しれませんが、怒りはあくまでも自分の中で起こっているものです。
そこにはあなたが持つ独特の「考え方・信念」があるかもしれません。
アンガーマネジメントに関しては、沢山の本が出ておりますので、お手に取って読んでみるのも良いでしょう。
引用文献:
清水栄司. (2018). マンガでわかるアンガーコントロールガイド. 法研.
エマ, ウィリアムズ, レベッカ, バーロウ. (2012). アンガーコントロールトレーニング: 怒りを上手に抑えるためのステップガイド. 星和書店.
OZAWA, Yuri, et al. 感情制御とマインドフルネスがアンガーマネジメントに及ぼす影響.
ぐるぐる思考、考え込むことをやめられないのはなぜ?
人間は他の動物と比べて考えることが非常に上手な生き物です。
しかし、時に考えることが止まらなくなって、同じような、考えても仕方がないような
ことをぐるぐると考え込んでしまうことがありませんか?
「どうして自分はこんな風になったんだ」
「あの時、もっとああしておけば良かったのに」
「来週の発表がうまくいかなかったどうなってしまうだろう」
「もしあの人に嫌われたらどうしよう」
「これから先うまくやって行けるのだろうか」
など、済んでしまった過去のことや、もうこれ以上考えても仕方がないような未来のことを
考え込んでしまったりします。そうすると、気持ちはとても落ち着かなくなります。
もし眠ろうとしているところだったら眠気はどこかへ行ってしまい、
仕事中であれば仕事は手につかなくなってしまうでしょう。
こういったぐるぐる思考のことを、心理学では「反すう(rumination)」と呼んでいます。
反すうは、抑うつや不安、それ以外のストレスと強く関連しており、反すうをすることによって
落ち込みや不安な気持ちがより強くなったり、そのような辛い気持ちが持続しやすくなったりします。
日常的に反すうを行う人の中には、反すうが「役に立つ」、または「それをしないともっと悪いこと
になる」といった間違った認識を持っている場合があることが分かっています。
当たり前だと思ってやっているその「反すう」が本当に自分の役に立っているのか、
少し距離を置いて客観的に、見直してみるのもよいでしょう。
有名なプレゼンテーション番組TEDでも、この反すうについて取り上げたプレゼンがあります。
反すうをどのように扱っていけたらよいかのヒントが得られるかもしれません。
もし、自分一人では反すうを止めることが難しいと感じたら、当オフィスまでお気軽にご相談ください。
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